コロイドの性質と分離


コロイドってなんだろう

コロイド? 聞き慣れない言葉かもしれません。でも、心配はいりません。その正体は、私達が日頃から見たり、ふれたりしているものです。ゼリーやチーズ、牛乳、そして煙や雲もコロイドと呼ばれるものです。

砂を入れた水をよくかき混ぜても、その中にある砂の粒が目に見えます。また、これを放っておくと、砂は下に沈み、上にきれいな水がたまります。「ろ紙」という小さな穴のあいた紙をつかって「ろ過」することによっても、水と砂とをわけることができます。

液体の中に他の物質(固体、液体または気体)がとけて均一な混合物をつくる現象を溶解といい、できた混合物を溶液といいます。たとえば食塩や砂糖を水に溶解させると、水の中に食塩や砂糖がばらばらの分子やイオンなどの小さな粒となり、水の中に均一に混ざってしまうため、眼で見て確認することができなくなります。水にとけている粒の大きさはとても小さく、1 nm 以下です(1 nm(ナノメートル) = 1 × 10-9 m)。また、この溶液を放っておいてもしぜんにわかれることはありません。

別のある物質を水などに混ぜた時に、同様に肉眼で見ただけでは確認できないけれども、食塩や砂糖の溶液中の粒よりも大きい粒子となって、均一に分散することがあります。この様な状態をコロイド(Colloid)といい、分散している粒子をコロイド粒子(分散質)といいます。コロイド粒子の大きさは、おおよそ、直径 1 〜 100 nm 程度です。この程度の大きさの粒子は、ろ紙を通りぬけてしまうため、真の溶液と同様、ろ過によって分けることはできませんが、コロイド溶液は真の溶液とは異なるいくつかの特徴的な性質を示します。

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コロイド溶液のひとつの例である牛乳は、水の中にたんぱく質や脂肪の小さな粒がコロイド粒子として分散しています。この場合の水のように、コロイド粒子を分散させている物質を分散媒といい、この分散媒が液体の場合はコロイド溶液またはゾル(Sol)といいます。コロイドには、分散媒が水のような液体ではなく、固体であったり、気体であったりするものもあります。また、寒天を溶解したものや卵白のように、ある種のコロイド溶液には、加熱したり、冷却したりすると、流動性を失って全体が固まるものもあります。固まった状態のコロイドをゲル(Gel)といいます。また、このゲルを乾燥させたものをキセロゲルといいます。乾燥剤などとしてよく使われるシリカゲルが、このキセロゲルの例です。

身近なコロイドの例
分散媒分散質コロイドの例特別な名称
固体固体色ガラス、
オパール、
ルビー、
合金
 
液体ゼリー、
寒天
 
気体マシュマロ、
スポンジ
 
液体固体絵の具、
墨汁、
泥水
懸濁液
液体牛乳、
マヨネーズ
乳濁液
気体 
気体固体エーロゾル
液体霧、雲
気体(なし) 

浜島書店「ニューステージ、化学図表」、東京書籍「図説化学」 より引用

コロイド溶液の示す性質

チンダル現象 (ビデオ

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コロイド溶液の側面からレーザー光などの強い光を当てると、コロイド粒子により光が散乱されて、光の進路が明るく輝いて見えます。これをチンダル現象といいます。


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透 析

コロイド粒子は、ろ紙の穴を通り抜けてしまうので、ろ過により分けることができませんが、セロハン膜など(半透膜という)の孔径より大きいので、セロハン膜を通過しません。一方、分子やイオンは膜の孔径より小さいので、通過してしまいます。そのため、コロイド溶液を半透膜に入れて純水中につるしておくと、分子やイオンは膜を通して除かれ、精製することができます。この操作を透析といいます。

いろいろな粒子の大きさと半透膜の孔径
イオン・分子コロイド光学顕微鏡で
見える範囲
半透膜の孔径
(セロハンなど)
ろ紙の孔径
1 nm 以下1 〜 100 nm300 nm 以上3 〜 4 nm1000 nm 位

凝 析

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コロイド粒子は表面にプラスかマイナスの電荷をもっているので、同種類のコロイド粒子は、互いに反発し合って凝縮*しないので沈澱しません。この溶液に少量の電解質を加えると、反対符合の電荷を有する電解質イオンがコロイド粒子の表面に結合して、表面の電荷が打ち消され、コロイド粒子同士の反発力を失い、凝縮*が生じて、コロイド粒子が沈澱するのが観察できます。この現象を凝析といいます。

*凝縮:小さな粒が集まって大きい粒や沈殿になること。雲の中の水の粒が集まって雨になって落ちてくるのもこの現象によるものです。


電気泳動

コロイド粒子は表面にプラスかマイナスの電荷をもっているので、コロイド溶液に電極を差し込み直流電圧を加えると、プラス電荷を有するコロイド粒子はマイナス極へ、マイナスの電荷を有するコロイド粒子はプラス極へと移動します。この現象を電気泳動といいます。

ブラウン運動

コロイド粒子は周囲の分子の不規則な衝突により、たえず不規則な運動をしています。この運動をブラウン運動といいます。

疎水コロイドと親水コロイド

少量の電解質を加えると簡単に凝析を起こすコロイドを疎水コロイドといいます。これに対して、少量の電解質を加えても凝析を起こさないコロイドを親水コロイドといいます。親水コロイドの多くは粒子の表面が水分子の膜で覆われています。親水コロイドでも多量の電解質を加えると、その表面の水分子の膜が消失して沈澱をおこすことがあります。このような現象を特に塩析といいます。

疎水コロイドに親水コロイドを加えると、疎水コロイドに親水コロイドが付着して凝析しにくくなります。このような働きをする親水コロイドを保護コロイドといいます。

保護コロイドの例
墨汁:炭素粉のコロイドに保護コロイドとしてにかわを加える。
インク:色素の入ったコロイドに保護コロイドとしてアラビアゴムを加える。

実 験

実験目的

水酸化鉄 (III) のコロイドについてその性質を調べ、コロイドの特性を知る。
(チンダル現象の観察。透析実験。凝析実験。)

水酸化鉄(III)コロイド溶液の調製 (ビデオ

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熱水の中に、塩化鉄(III) (FeCl3)の水溶液を加えると次の反応式にしたがって水酸化鉄(III) (Fe(OH)3)のコロイドが生じる。色の変化に注意すること。

FeCl3  +  3 H2O  →  Fe(OH)3  +  3 HCl

水酸化鉄(III)のコロイドは、粒子の表面にプラスの電荷を持つコロイドである。また、反応とともに塩酸が生じている。


チンダル現象の観察 (ビデオ

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純水、塩化ナトリウム (NaCl) 水溶液、水酸化鉄(III)のコロイド溶液、石けん水、牛乳を水で薄めたもの、をそれぞれ透明な瓶にいれ、その側面から強い光を照射して、その様子を観察する。どの溶液が、光の進路が輝いて見えるか。(注:光源は絶対に覗き込まないようにする。)


透析実験

確認試薬

A. 硝酸銀水溶液(AgNO3 0.1 mol/L)(シールの色:黄)
(塩酸や食塩などの溶液のように、Clが存在する溶液と反応して白く濁る。白い沈殿の正体は塩化銀(AgCl)である。)(ビデオ

B. ヘキサシアノ鉄(II)酸カリウム水溶液(シールの色:青)
(溶液中にFe3+のイオンがあると青色になる。塩化鉄(III) の水溶液や水酸化鉄(III) のコロイド溶液は、この試薬で青く変化する。)(ビデオ

C. メチルオレンジ水溶液(シールの色:赤) (メチルオレンジ溶液(変色域:pH = 3.1 〜 4.4 )は酸性側で赤色、塩基性側でオレンジ色になるため、塩酸などのH+イオンを含む酸を検出することができる。)(ビデオ

注意:特に硝酸銀水溶液は皮膚に付けると褐色になり、洗っても色が落ちにくいから、手につけないように充分に注意すること。

mol/L というのは、濃度の単位。モル毎リットルと読む。
mol というのは物質の量の単位の一つ。おなじ mol 数の異なった物質の中には、同じ数の粒子(分子など)が含まれるように決められている。

実験手順

  1. 実験台のグループごとに 1000 mL のビーカー に、約 500 mL の純水を入れる。その中にそれぞれのセロハンを浸して柔らかくする。
    (注:セロハンは極力手で触れないこと。ピンセットを用いてセロハンの端をつまんで取り扱う。セロハンにキズをつけないこと。)
  2. 12本の試験管に、黄、青、赤のシールを、各色4本ずつ貼り、それぞれ1〜4の番号を振っておく。
  3. 逆さにふせた500 mL のビーカーの上に 蒸発皿を置き、1で柔らかくしたセロハンを広げる。この時はセロハンの端を手で持ってもよいが、4で水の中に入る部分には手を触れないこと。 figure
  4. 約 7 mLの水酸化鉄(III)のコロイド溶液を、メスシリンダーではかり取る。この全量を2のセロハンに入れ、凧糸でしばる。
  5. 200 mL のビーカー に約 100 mLの純水をとり、4で作ったコロイド溶液の入っているセロハンをつるし、透析する。約5〜7分間放置する。
    このとき、透析を開始した時刻と終了した時刻を分単位まで記入しておくこと。
  6. 比較のために塩化鉄(III)溶液の透析を行う。(グループについている学生スタッフが行う。)1〜5の操作を繰り返す。ただし、4では、水酸化鉄(III)のコロイド溶液の代わりに塩化鉄(III)溶液を用いる。また、透析を行うビーカーにはコロイドの透析実験と混同しないようにシール等でマークしておくとよい。
  7. コロイド溶液の入っているセロハンを取り出し、そのまま別の100 mL のビーカー に入れておく。
  8. 200 mL のビーカー中の、先ほどまでセロハン紙につつまれたコロイド溶液が浸っていた周囲の水を3本の試験管 黄-1、青-1、赤-1 に 3 〜 4 cm の高さになるように取る。
  9. 比較のために、それぞれ別の試験管3本づつに、純水(黄-2、青-2、赤-2)と、塩化鉄(III)を透析した周囲の水(黄-3、青-3、赤-3)、純水に水酸化鉄(III)のコロイドを少量混ぜたもの(黄-4、青-4、赤-4)を取る。
  10. 黄のシールを貼った試験管には硝酸銀水溶液を、青のシールを貼った試験管にはヘキサシアノ鉄(II)酸カリウム溶液を、赤のシールを貼った試験管にはメチルオレンジ溶液をそれぞれ1 〜 2 滴滴下し、試験管内の水の色の変化を観察し、記録する。
  11. これらの実験によりどのようなことがわかるか考えよう。
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凝析実験

使用試薬

D. 塩化ナトリウム水溶液 (NaCl 0.1 mol/L )

E. 塩化カルシウム水溶液 (CaCl2 0.05 mol/L )

F. 硫酸ナトリウム水溶液 (Na2SO4 0.05 mol/L )

これらの水溶液はそれぞれ以下のようにイオンに別れている。

NaCl  →  Na+  +  Cl
CaCl2  →  Ca2+  +  2 Cl
Na2SO4  →  2 Na+  +  SO42−

したがって、E は D の半分の濃度だが、D と同じ量の負イオン Cl を含み、D に比べて半分の粒子数の正のイオンを含む。正イオンの価数は倍であるため、つりあいがとれている。
また、F では、D と同じ量の Na+ を含み、負のイオンは、その価数が倍になった分だけ粒子数は半分である。

実験手順

  1. 透析の実験7で 100 mL のビーカー に入れておいたセロハンの中の透析した後の水酸化鉄(III)のコロイド溶液を約 2 mL スポイトを用いて、新たな3本の試験管 D、E、F に等分する。
  2. D に塩化ナトリウム溶液を, E に 塩化カルシウム溶液を, F に硫酸ナトリウム溶液をそれぞれ1滴ずつ滴下し, 試験管を振ってコロイド溶液の変化を観察する。もしも変化がなかったら、さらに1滴加えて変化の様子を観察する。(全体で5滴まで繰り返す。)
  3. 2の実験で水酸化鉄(III)のコロイド溶液を凝析させるにはどのようなイオンが最も有効であるかを考えよう。

実験結果の解釈

各溶液の中の粒子は何か

純水

これは比較のために用いている。特にイオンやコロイド粒子を含まない。

水酸化鉄(III)コロイド溶液

高温の水に塩化鉄(III)を加えると、次の反応で水酸化鉄(III)のコロイドが生じる。

FeCl3  +  3 H2O(高温)  →  Fe(OH)3(コロイド)  +  3 HCl

従って、溶液中には、水酸化鉄(III)コロイド、塩酸などが含まれる。
生じた塩酸は次式のように解離している。

HCl  →  H+  +  Cl

塩化鉄(III)溶液

低温の水に塩化鉄(III)を加えると、塩化鉄(III)の一部は次式のように解離している。

FeCl3  →  Fe3+  +  3 Cl

また、一部の塩化鉄(III)が次のような反応(加水分解)により塩酸を生じる。

FeCl3  +  3 H2O(低温)  →  Fe(OH)3(非コロイド)  +  3 HCl   (一部)

生じた塩酸は次式のように解離している。

HCl  →  H+  +  Cl

透析の結果と検出試薬の反応

実験番号\ 指示薬等硝酸銀水溶液ヘキサシアノ鉄(II)酸カリウムメチルオレンジ
用いた溶液とその内容物塩化物イオン( Cl )の検出鉄(III)イオン( Fe3+ )の検出酸( H+ イオン)の検出
4水酸化鉄(III)コロイド溶液Fe(OH)3(コロイド)
H+
Cl
検出非検出*検出
1水酸化鉄(III)コロイド溶液を透析した水H+
Cl
検出非検出*検出
 塩化鉄(III)溶液Fe(OH)3(非コロイド)Fe3+
H+
Cl
検出検出検出
3塩化鉄(III)溶液を透析した水Fe(OH)3(非コロイド)Fe3+
H+
Cl
検出検出検出
2純水なにも含まない非検出非検出非検出
*:コロイドを作る反応がうまくゆかず、塩化鉄や非コロイドの水酸化鉄(III)が残っていたりすると、それが原因で、わずかに青く呈色することがある。

凝析の結果と解釈


はじめは、表面に電荷をもつために互いに静電反発していたコロイド粒子同士も、溶液中にくわえられた電解質(塩溶液)由来のイオンにより表面の電荷がうちけされてしまうと、沈殿をはじめる。このような現象を「凝析」という。一般に、コロイド粒子の表面の電荷と反対符号で価数の大きいイオンが凝析に効果的である。
今回の実験では、塩化カルシウム(正の二価イオン、Ca2+ を含む)よりも、硫酸ナトリウム(負の二価イオン、SO42− を含む)の方が効果的に凝析をおこしたことより、水酸化鉄(III)コロイドの表面電荷は正であったことがわかる。
コロイドの表面の電荷が正であるか、負であるかは、電気泳動などで確かめることができる。


多価イオンがコロイド間を橋掛けし、効果的に凝析させるモデル図


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